CLOUD

クラウド」全公演終了致しました。
例によって、パンフレットに掲載したテキストをアップしておきます。
今回は、まだ続きがございますので、興味のある方は、
http://www.suzukatz-cloud.com/
のほうもチェックしてみてください。

「Joy To The World」

今年はリセットの年にしようと決めていた。昨年、『ファントム』の公演を終えてから今回の『CLOUD』まで、半年公演の予定がなかったので、いい機会だと思っていた。この数年、インプットをする時間があまりなく、アウトプットばかりしていた気分だったので、エネルギー補給の必要を感じていたのだ。
1月は、今回の『クラウド』を含めてオリジナル脚本を2本書いて過ごした。オリジナル脚本を書くのは、アウトプット作業には違いないが、僕はオリジナル脚本を書く前に、かなりの量の読書をする。他人が書いたものを読むことで、自分の考えを確認するというやり方なのだ。読む本は、どんなジャンルでもかまわない。次々と本を開き、気になったセンテンス、フレーズ、セリフへ赤のボールペンでどんどん線を引いて、あとでそれをまとめて読み返すと、驚くほど現在の自分をつかむことができるのだ。ついでに、かなりの情報をインプットすることができる。だが、『CLOUD』はかなり意識の深いところへ下りて行かないといけないので、1月中には完成せず、次の公演の脚本のほうが先に完成してしまった。
2月は、ヨーロッパへサッカー観戦の旅に出た。ローマからスタートして、ミラノ、リバプール、ロンドンと移動した。ホテルとサッカーのチケットだけ予約しておいて、あとは出たとこ勝負のお気楽旅。ミラノで長友のインテルデビューを見ることができた。リバプールで、本物のコップ(リバプール・サポーター)とともに「You'll Never Walk Alone」を歌った。ロンドンで、あのバルサアーセナルに負けるのを見た。芝居は1本も見なかったので、完全に演劇脳はお休みさせることができた。おかげで脳が新鮮な空気を取り込むことができたのか、いいアイデアやコンセプトをいくつか手にすることができた。
3月は、『CLOUD』を完成させることが第一目標で、次にこの先に公演予定の上演台本をいくつかやっておきたかった。帰国後は、週に1本のペースで芝居を見るようにして、演劇脳も起こし始めていた。
そこに3.11が起きた。
自宅で書き仕事をしていたので、地震の直後からネットとテレビに釘付けになった。それこそ1日中テレビをつけっ放しで、あらゆる津波の映像を記憶してしまうほど何度も見た。日本のテレビでは放送されないような映像や画像を求めて、ネットをさまよった。原発事故が表沙汰になってからは、さらに情報を求めてMacの前に座り続けた。静かに日常生活を送っているようで、毎日非日常が続いた。僕個人のリセットなんてお気楽なことではない、日本人規模、さらには人類規模での重大な意識変革が必要になってしまったのだ。
2週間くらいは、脚本を書く気などまるで起きなかった。とにかく、あらゆる価値観を見直さなければならなかった。演劇とどう向き合うのかも、曖昧にしていてはいけない。何のために表現行為をやり続けているのか?そもそも、なぜやり始めたのか?そして、オリジナル作品をやるからには、もっと深く意識の底のほうまで下りて行かなければダメだ、と感じた。
そのときまで、僕は『CLOUD』を『LYNX』の構造を使って、50歳になったオガワを描こうとしていた。だが、僕はそれをやめることにした。『LYNX』の構造を使うのではなくて、『LYNX』の感覚を取り戻すことこそが必要だと感じたのだ。ジャック・マイヨールが、呼吸をとめ深海に下りていくような、あの感覚……恐怖じゃない……そこには喜びの世界がある。

本日はご来場誠にありがとうございます。
ごゆっくりお楽しみください。
鈴木勝秀(suzukatz.)