太田省吾死去

67歳。肺ガンによる肺炎。初めて「水の駅」を見た後の衝撃は忘れられない……狭い劇場に客入れの音楽はない。かわりに、舞台に設置された水道から、わずかに流れ落ちる水が「じょぼ、じょぼ……」と音を立てている。女(安藤朋子)がゆっくりとゆっくりと現れる。時間が引き延ばされ、日常が遙か彼方へ去っていく。5分はかけて水道に近づいた女が、プラスティックの容器を流れ落ちる水に差し出す。一瞬、「じょぼ、じょぼ」が消え、完璧な静寂が訪れる。次の瞬間、エリック・サティジムノペティ」のピアノがカットインしてくる。世界は、太田省吾の頭の中にしか存在しないはずの「水の駅」という別世界に塗り替えられた……演劇における音のタイミングというものを、この一瞬で学んだといっても過言ではない。