「臨床心理学ノート」/河合隼雄/金剛出版臨床心理学ノート作者: 河合隼雄出版社/メーカー: 金剛出版発売日: 2003/04/25メディア: 単行本 クリック: 2回この商品を含むブログ (4件) を見る

金剛出版が出している学術雑誌「臨床心理学」での連載をまとめたもの。それゆえに、一般向けというよりは、心理療法士やスクールカウンセラーなど臨床心理の専門家へ向けて書かれたもの。それでも、十分に役立つフレーズ満載。特に第8章「心理療法におけるアドバイス」が重要。

心理療法の過程において、クライエントの経験することは芸術活動に似ている。

常に同じことを言っているのは専門家ではない。

アドバイスの害が大きいのは、それを何らかの「権威」を背景にして行う場合である。

臨床心理士の場合は、(中略)アドバイスということが、それほど意味をもたなかったり、時には有害にさえなってくる。
なぜ有害なのか。それは、人間が変わる、成長する、という時間とエネルギーを必要とする仕事を避け、うまく解決したような錯覚によって片づけてしまう危険があるからである。(中略)
その場の思いつきでアドバイスを与えると、何だかうまくゆきそうに思い、物事が解決したような気さえ生じる。結果は何も変わっていないのに、アドバイスを与えた者は自己満足にひたることになる。

クライエントの話に耳を傾けているうちに、アドバイスが心に浮かんでくることがある。しかし、それをどのように言語化するかがなかなか難しい。というのは、こちらの言葉をクライエントが「納得」していなかったら、アドバイスは有効にはたらかないからである。そのひとつの方法として、クライエントの用いた言語表現やイメージを使う、あるいはクライエントの提示した世界の中で発言する、という方法がある。

アドバイスをするにしても、クライエントに対する共感を表現した後にするかどうかによって受けとり方も変わってくる。

同質の者が集まっては変革はできない。

アドバイスは少し圧力が強いと思うとき、「ひとり言」のように治療者が話す、という方法もある。

単にアドバイスをするというのではなく、それと関連する「お話」をするのも有効である。

受容できないのに、そのようなふりをすることは、禁物である。受容などというよりも、明確な拒否が必要である。時には、治療者のなかにこみあげてくる怒りを、そのまま表出する方がはるかに好ましい。

自分の「限界」を知っているのが専門家である。

日本人は欧米人に比して、融合と言うことに関しては、歴史も長いし、現在においても比較的可能性が高く、それへの対処の方法も何となく身につけている、という利点をもっているが、倫理観の厳しさ、意識化の努力という点では劣るところがある、と思われる。それでも、治療者とクライエント関係(のみならず、一般的人間関係)においても、日本人が融合体験という点でよく知っていることを生かして、欧米の心理療法家に対して有用な発言をすることは可能だろう。

もちろん、臨床心理学の世界だけじゃなく、日本人だからこそ西洋文化に対してできることはある。そして、それは今後へ向けての光明であるとも言える。