青春ピカソ/岡本太郎/新潮社

青春ピカソ (新潮文庫)

青春ピカソ (新潮文庫)

ピカソのうまさがどうしても超えることが出来ない峻険であるとすれば、それは実は超える必要のない峰だということを意味している。

セザンヌゴッホの前では、われわれは希望的である。しかし、ピカソの前では、その未完成的な表情にかかわらず、すべては完了したという虚無感しかない。いったいこのピカソからわれわれは何を取ることが出来るだろう。ピカソのみ輝いている。周りは全部暗闇である。そしてその闇の中にわれわれは立たされているのだ。われわれは虚無をのり超えて行かなければならない絶望的な課題に直面しているのである。

日本の天才、岡本太郎の、世紀の天才ピカソ論。驚くほどピカソを高く評価し、賛美しまくっている。ピカソのアトリエを訪れたときのタローは、まったくのミーハーだ。ピカソは、グレコに憧れた。どんな天才にも、憧れの人はいるのだ。相変わらず読みやすい平易な日本語で書かれていて、タローの理解力と表現の的確さに感心するばかりだ。

口惜しいが、私だったらきっと拭きとってしまうに違いない。まことに残念である。私は痛いほどわが身をたたいた。しみが口惜しいんじゃない。ただ己れにも他にもすべて許されているという彼なればこその凄みが、芸術の根本問題としてこのしみを通して堂々と見せつけられるからである。

展覧会に出費されたピカソの絵に、絵の具の垂れこぼれや床の泥のはねを見つけたタローの感想だ。その気持ちが少しわかる。