パルプ/チャールズ・ブコウスキー(柴田元幸:訳)/新潮文庫

パルプ (新潮文庫)

パルプ (新潮文庫)

柴田訳でブコウスキーを読んだ。まさにB級。私立探偵物ハードボイルドかと思いきや、依頼人が死神だったり宇宙人だったり。事件はほとんど解決もせず、主人公のビレーンがしていることと言えば、酒を飲むか競馬でするか。女に欲情はするが、実際に手をつけるところまではいかない。こんなインチキな作品を、人生の最後(「パルプ」はブコウスキーの遺作/74歳)に書いてしまうなんて、やっぱり年季が違うというか、筋金入りのインチキ(オレにとっての最大級の誉め言葉)作家というか、老成しないというか、全然ブンガクしないところがカッコイイ。でもって、柴田訳も簡単な言葉を選んで、とにかく平易に簡潔になっていて、その安っぽさがいい。ビレーンが、競馬のノミ屋相手に使うコードネームが“スロー・デス”だったりして、うれしくなったりした。

俺たちはさんざん待った。俺たちみんな。待つことが人を狂わせる大きな原因だってことくらい、医者は知らんのか?人はみな一生を待って過ごす。生きるために待ち、死ぬために待つ。