これは納得の一冊だ。心は「空白の石版」(=ブランク・スレート)だ、と言ったのは、17世紀のイギリスの哲学者、
ジョン・ロックだ。子供はまっさらな、何も書かれていない心を持って生まれてくる、という考え方だ。つまり、人間は育て方によってどうにでもなるということだ。だが、どうもそうじゃない、と感じている人が大勢いるはずだと思う。しかし、心のありようも遺伝的だ、と言ってしまうと、それはそれで問題が生じる。特に差別問題だ。男女の性差。民族問題。貧富問題。だから、人間の心は最初は何も書かれていないブランク・スレートで、後天的、経験的に作られていくと言っておいた方が安全なのだ。誰にでも同じように素晴らしい人間になれる可能性があるのだから。だが、それでは本当の問題の解決にならない、とピンカーは主張する。要するに、ヤバイところを見ないふりをするのではなく、それをしっかり把握した上で問題解決の方法を探ろう、という態度なのだ。もちろん、この本がすべての回答を用意しているわけではない。むしろ、問題提起に終わっている。だからこそ、その先を考えてみようという気にさせる。それにしても、こんな危険な提言をしたピンカーの勇気は素晴らしい。そこらじゅうから攻撃されるのは、火を見るより明らか。それでも言わずにいられなかったというところに、この問題に対するピンカーの切実さを感じた。