ハンニバル・ライジング(上下)/トマス・ハリス(高見浩:訳)/新潮文庫

こちらも、今頃読んだ。映画の評判はさっぱり聞かなかったし、どうやってハンニバル・レクターが誕生したかには、それほど興味なかった。"怪物"は"怪物"でいいような気もするし。それでも、読み進めていくうちに、トマス・ハリスストーリーテリングのうまさにやられる。特に、ハンニバルが閉じこめられていた記憶を呼び覚まそうとするくだりは壮絶だ。殺人のシーン以上に印象に残る。「羊たちの沈黙」で決定的なキャラクターとなったハンニバルだが、その最大の特徴は"記憶力"である。そして、個人的にハンニバルにひかれるのは、その"記憶力"なのであることがはっきりした。それにしても、紫夫人を通じて描かれる日本テイストは、いったいどうしたことか?生半可な知識ではないことから、そこにトマス・ハリスが大きな意味を与えていることは間違いない。日本のマーケットを相当意識したのか?と考えてしまったりもする。映画になることは書く前から決まっていたことだろうし、ハリウッドにとって今や日本のマーケットは最重要マーケットの一つだし……ま、ともかく、これでハンニバル・シリーズはおしまいにしてくれることだろう。ハンニバル・シリーズより、「羊たちの沈黙」を超える作品を書いていただきたい。